睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群という名前を聞いたことはありますか?これは、眠っている間に何度も呼吸が止まってしまう病気です。「たかがいびき」と思われがちですが、実は体に大きな負担をかけている可能性があります。
日本では約500万人もの方がこの病気を抱えていると推定されていますが、きちんと治療を受けている方はそのうちの1割程度。多くの方が気づかないまま、あるいは気づいていても放置している状態なのです。

なぜ呼吸が止まってしまうのか
眠りに入ると、私たちの体は全身の力が抜けてリラックス状態になります。このとき、のどの奥の筋肉も緩むため、舌の付け根が落ち込んだり、のどの壁が狭くなったりします。
健康な方なら問題ありませんが、もともと気道が狭い方や、のどの周りに脂肪がついている方では、空気の通り道がふさがれてしまうのです。
想像してみてください。ストローの先を指でつまんだ状態で息を吸おうとすると、とても苦しいですよね。睡眠時無呼吸症候群の方は、毎晩このような状態で眠っているのです。体は酸素を求めて必死に呼吸しようとしますが、気道がふさがっているため息ができません。そして苦しくなると、無意識のうちに目が覚めて呼吸を再開する…これを一晩に何十回、何百回と繰り返しているのです。
こんな症状に心当たりはありませんか?
最も分かりやすいサインは「いびき」です。特に、音が大きくて不規則、時々止まるようないびきは要注意。パートナーから「寝ている間、息が止まっていたよ」と言われたことがある方は、すぐに受診をお勧めします。
でも、一人暮らしの方は自分のいびきに気づきにくいですよね。そんな方は、日中の症状をチェックしてみてください。しっかり寝たはずなのに、朝起きたときに疲れが取れていない、頭が重い、のどがカラカラに渇いている…こんな経験はありませんか?

また、日中の強い眠気も重要なサインです。会議中にウトウトしてしまう、信号待ちで眠くなる、テレビを見ていると必ず寝てしまう…これらは単なる疲れではなく、夜間の睡眠の質が悪いことが原因かもしれません。
放っておくと怖い合併症
「いびきくらい…」と軽く考えていると、実は恐ろしい病気を引き起こす可能性があります。睡眠中に何度も酸素不足になることで、心臓や血管に大きな負担がかかります。高血圧になりやすくなり、さらには心筋梗塞や脳卒中のリスクも高まります。
ある研究では、重症の睡眠時無呼吸症候群の方は、そうでない方と比べて寿命が短くなることが分かっています。また、日中の眠気による交通事故のリスクは、健康な方の約7倍にもなるという報告もあります。仕事の効率が落ちたり、大切な場面で集中できなかったりと、生活の質も大きく低下してしまうのです。
どんな検査をするの?
まずは、簡単な問診票(エプワース眠気尺度)で日中の眠気の程度をチェックします。その後、実際に眠っているときの状態を調べる検査を行います。
最初は「簡易検査」といって、小さな機械を自宅に持ち帰り、鼻と指にセンサーをつけて一晩眠るだけ。痛みもなく、普段通りの環境で検査ができるので負担も少ないです。この検査で、呼吸が止まっている回数や、血液中の酸素の量を測定します。

簡易検査で異常が見つかった場合は、より詳しい「精密検査」を行います。これは1〜2泊の入院が必要ですが、脳波や心電図なども一緒に測定することで、睡眠の深さや質まで詳しく分かります。たくさんのセンサーをつけるので最初は違和感があるかもしれませんが、痛みはありませんので安心してください。
※エプワース眠気尺度(ESS)という質問票を用いて、日常生活の様々な場面での眠気を点数化し、11点以上の場合は病的な眠気があると判断されます。
エプワース眠気尺度(ESS)問診票
Epworth Sleepiness Scale
この問診票はあなたの日中の眠気を評価するものです。
最近の生活の中で、次のような状況になると、どのくらい眠ってしまいそうになるか、下の点数でお答えください。
質問のような状況になったことがなくても、その状況になればどうなるかを想像してお答えください。
あなたの合計点
Johns MW: A new method for measuring daytime sleepiness; The Epworth sleepiness scale. Sleep 14: 540-545, 1991より引用改変
治療すれば劇的に改善します
睡眠時無呼吸症候群の治療で最も大切なのは、まず生活習慣を見直すことです。太り気味の方は、体重を5〜10%減らすだけでも症状がかなり良くなることがあります。お酒を控える、横向きで寝る、枕の高さを調整するなど、今日からできることもたくさんあります。
軽い症状の方には、マウスピースを使った治療があります。これは下あごを少し前に出して固定する装置で、寝ている間に気道が狭くならないようにします。歯医者さんで型を取って作ってもらいます。

中程度から重症の方には、CPAP(シーパップ)という治療法が効果的です。鼻にマスクをつけて、機械から送られる空気の圧力で気道を広げる方法です。最初は違和感があるかもしれませんが、慣れてくると「これなしでは眠れない」という方も多いんです。実際、使い始めて数日で「朝の目覚めがこんなにスッキリするなんて!」「日中眠くならなくなった」と驚かれる患者さんがたくさんいらっしゃいます。
いびきは体からのSOS
いびきは決して「よく眠っている証拠」ではありません。むしろ、体が「苦しい!」と訴えているサインなのです。特に女性の場合、更年期を迎えるといびきをかきやすくなることが知られています。恥ずかしいと思われるかもしれませんが、健康のためにも早めの受診が大切です。
最近は「いびき外来」や「睡眠外来」を設けている病院も増えてきました。耳鼻咽喉科や呼吸器内科、循環器内科などでも診療を行っています。治療は継続的な通院が必要になることが多いので、通いやすい場所にある病院を選ぶことをお勧めします。
今からできること
睡眠時無呼吸症候群は、放置すれば命に関わる病気ですが、適切な治療を受ければ劇的に改善する病気でもあります。「最近疲れが取れない」「パートナーにいびきを指摘された」という方は、一度専門医に相談してみてはいかがでしょうか。
質の良い睡眠は、健康で充実した毎日を送るための基本です。ぐっすり眠って、スッキリ目覚める。そんな当たり前の幸せを、もう一度取り戻してみませんか。
